世界一屈折率の高い無色透明ガラス、分散度はダイヤモンドより高い。
これにブリリアンカットを施せば? 始まりはそんな好奇心だった。

OUTLINE
光学用途で超高屈折率ガラスを開発中に実現した、かつてない屈折率と分散度。高度なガラス設計技術と革新的なガラス溶融技術の思いがけない成果だった。開発担当者が試しにブリリアンカットを施してみると、目を奪う七色の輝きが…。しかし宝飾分野はNEGにとって白紙の世界。これで何をつくってどう発信するか。全ては手探りで始まった。
PROJECT
MEMBER
Y.T.

Y.T.

  • 2005年入社
  • 自然科学研究科
  • 化学専攻修了
Y.Y.

Y.Y.

  • 2018年入社
  • グローバル地域文化学部
  • グローバル地域文化学科卒
N.S.

N.S.

  • 2007年入社
  • 工学研究科
  • 金属フロンティア工学専攻
    修了
S.S.

S.S.

  • 2019年入社
  • 経済学部卒

かつて例のない高屈折率ガラス。
それはブリリアンカットで燦然と輝いた。

Y.T.はその時、かつてない高い屈折率を持つガラスの開発に挑んでいた。そしてある日、商品化が可能な無色透明ガラスとしては過去に例がなく、ダイヤモンドの2.42にも肉薄する、2.22という高屈折率を実現。顧客の課題を解決するためには他にクリアすべき点が残っていたが、中間報告のため球体の試作品を持参した。先方の担当者はこれに驚き、「ブリリアンカットするとさぞかしきれいでしょうね」と、遠くを見る目になった。実はY.T.も考えていた。2.22といえば、入ってきた光が全て反射して戻るレベルだ。1.56のクリスタルガラスと比べ、どれほど輝きに違いがあるのだろうか…。
試してみずにはいられなくなり、宝石の加工業者にあたってみたが、なかなか引き受けてもらえない。散々苦労し、ついに「試すだけ試してみましょう」という反応を得て、試作品を託した。
やがて、それは姿を一変させて戻ってきた。みな、その想像以上の美しさに目を見張った。分散度がクリスタルガラスの0.018やダイヤモンドの0.044を凌ぐ0.104で、その結果、内部で反射を繰り返す過程で光が分散されて生まれるファイアと呼ばれる虹色の輝きがダイヤモンドより強いのだ。しかし、驚きと感動が落ち着くと厳しい現実も見えてきた。個人的に鉱物や宝石が好きで多少の知識のあったY.T.は、その世界で人工物がいかに軽視されがちかを知っている。キュービックジルコニアやクリスタルガラスといった人工物と同じ土俵にしか上がれないのであれば、とても採算はとれない。「あきらめよう」。そう決めてしまえば、もう未練はなかった。

産休・育休の間に復活していた難題。
真剣に向き合うと、絶妙のアイデアが!

Y.T.は直後の2018年6月から産休・育休に入り、年が明ける頃、3月の復帰時には以前とは別のグループに入ることが決まった。そしてそのメンバーの一人がY.T.の担当業務を復帰するまでの期間代行することになり、高屈折率ガラスに色をつけたものを試作。これにもブリリアンカットを施し、無色透明のものと合わせて上司に見せた。これが思いがけない新展開を生む。「おもしろい。ぜひ宝飾向けでの製品化を検討してみなさい」。ちょうどそのタイミングでY.T.が職場復帰し、一度は見切りをつけたはずの課題に再度向き合うことになった。
グループのリーダーN.S.がこれをサポート。2人で宝飾分野の関係者に他社でヒアリングを行ったが、人工物に対する評価の低さを再認識させられただけに終わった。「まずは高価格で販売するためのロジックをつくらないと…」と考え込むN.S.。冷静に一筋の可能性を追おうとするN.S.の姿勢に、Y.T.の否定的な思いもいつしか消えていた。
ほどなくN.S.はマーケティング部門に異動となり、再びY.T.に全てが託された。鍵となるブランディングを成功させるためには、すでに認知されているブランドとのコラボレーションが近道だ。たとえば、特長が大きく活きるティアラをこのガラスでつくってもらったらどうだろう。この思いつきから構想はふくらみ始め、オーダーメイドティアラを中心に既存ブランドをつぶさに検討。2020年、ティアラデザイナーの紙谷太朗氏とコンタクトをとった。

目を奪うティアラが完成! きらめく
宝飾ガラスの名は、infiora®。

ブリリアントカットを施した現物を見せると、紙谷氏は「めちゃくちゃキレイだ。すごく可能性がありますね」と、好反応。有名人などのオリジナルティアラを手がけて発信するというブランディングを展開されているため、そうした発信まで一緒に取り組めるのではないかという期待もあり、Y.T.はすぐに上司に了承をとって制作を依頼した。やがていくつかのデザインパターンが送られてきて、明らかに推しとわかる1つを選択した。
以来上司は「ティアラはまだか」と矢の催促。やがて見事なティアラが届いて12月の経営陣が出席する会議に間に合い、この会議にリモート参加したY.T.は、きらびやかなティアラに盛り上がる経営陣の様子を微笑ましく見守った。
こうして2021年1月には広報担当のY.Y.を巻き込み、本格的にプロジェクトが始動する。まず、このNEG初となる宝飾ガラスに、イタリア語の「in fiore(満開)」と「ora(今)」にちなんだ「infiora®(インフィオーラ)」という美しい名前が与えられた。
喫緊の課題はSNSでの発信だ。Y.T.とY.Y.に加え、マーケティング担当に立場を変えたN.S.も参加し、紙谷氏にも深く関わってもらいつつ事が進んだ。4月にはミュージックビデオで人気急上昇中のモデル、木野山ゆうを起用したYouTube動画の制作が実現。Y.Y.は撮影現場にも立ち会い、従来のNEGではあり得なかった貴重な経験を得た。目まぐるしい展開で、ゴールデンウィーク明けには動画を公開。紙谷氏の周辺、特にブライダル業界ではたちまちinfiora®の認知が進み、要望を受け日比谷花壇が運営するフォトスタジオでティアラ期間限定レンタルも実施した。

始まったNEG史上初のレンタル事業。
ガラスの未来は、さらに大きく広く。

翌2022年1月には、ブライダル事業を全国展開する株式会社クラウディアと紙谷氏が制作するレンタル用のコラボティアラにinfiora®を使うという計画が浮上。実施に向けて、まずはNEGには先例のないレンタル事業の枠組みをつくらなければならなくなった。Y.T.は、この案件の発端で関わりのあった電子部品事業部に応援を要請。当時入社3年目だった女性営業部員S.S.に白羽の矢が立ち、早速、担当依頼のメールが飛んだ。出張先のアメリカでメールを開いたS.S.は、ティアラのレンタル事業という文字にわが目を疑いつつも、これまでになく女性の感性が活かせる、はなやかな新規事業に期待をふくらませた。
S.S.の帰国を待って開かれたミーティングには、情報システムや経理などの関連部門から10人を超える人数が集まった。Y.T.が1人で始めた動きが、どんどん周囲を巻き込んでいく—。動きを見守るY.T.は事業立ち上げの手応えを実感し、自分の中では一度終わっていたテーマをここまで進めてくることができた巡り合わせに感謝した。
こうして10月22日、首都圏を中心にクラウディアグループ11店舗でレンタルがスタート。先立つ19日にはこれまでの経緯についてのプレスリリースも出し、社内外の耳目を集めた。次第にコロナ禍の終息も見え始める中、これまでのNEGのイメージを大きく打ち破る新分野の事業は、いよいよ離陸の時を迎えようとしている。

S.S.は勉強会を実施して対象店舗の店員さんにinfiora®の特別感や価値を知ってもらうなどブランディング活動を展開。Y.Y.は広報の立場から国内外に向けての今後の発信を模索し、N.S.はマーケティングの立場からBtoCの世界での訴求方法を探求していこうとしている。牽引役のY.T.は、今後レンタルに加え販売も手がけていく考えだ。そして、色もつけられるなどガラスならではの自由度を活かし、多くの人に驚きと感動を届けられればと願っている。

FUTUREイメージ